判例・裁判例コラム

抑うつ状態で1年近く出勤しない職員の解雇が、仮に就業できない状態であったとしても無効であるとされた事例

水戸地裁R6.4.26
漁業協同組合において、役職者が販売課の職員に対し、その勤務態度について問いただしたところ、職員がゲームをしていたと申告。役職者が相応の声量をあげて叱責した。職員は翌日から抑うつ状態を理由に出勤しなかったため、協同組合は約1年後にこの職員を解雇した
→職員は、欠勤を開始した後、医師の診察を受け、その際に、本件叱責のほか、仕事の負荷を以前から感じていたことや、使用者への不信感を述べており、医師は「職場でのストレスが強く抑うつ状態にある」と診断している。そうであれば、職員の抑うつ状態は、少なくとも業務と無関係とはいえない。さらに、欠勤開始の翌月に職員は協同組合に診断書を提出し、自身の抑うつ状態が業務上の理由によるものと考えていると伝えており、協同組合は、職員の抑うつ状態が業務に起因する可能性があると認識していたといえる。そうすると、協同組合としては、職員の解雇を検討するに当たり、職員の病状の詳細を把握し、その状態に応じて配置可能な業務の有無も含め、職員の職場復帰の可能性を慎重に検討することが求められるというべきである。
 しかし、協同組合は、欠勤開始の翌月に職員に対して病状等を報告するよう求めたものの、その後は、職員に病状の報告や診断書の提出を求めなかった。職員は、欠勤開始後、労働組合に加入し、労働組合との間で職員の解雇までに3回の団体交渉が行われており、協同組合が、労働組合を通じて、職員の病状や復職見込みを確認することは可能であった。それにもかかわらず、協同組合は職員が労働組合に加入して以降、病状等の報告を一切求めることなく、職員が業務に耐えられないとして解雇しており、その判断は早急に過ぎる。以上によれば、職員が精神の障害により業務に耐えられない状態にあったか否かにかかわらず、また、業務上の疾病にあたるかどうかを検討するまでもなく、解雇は社会通念上の相当性を欠く。解雇無効と判断

判決全文
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail4?id=93083

リハビリ勤務の規定をおけばリハビリ勤務を認める義務がある?前のページ

日本語能力の不足を理由に外国人大卒者を解雇した事例次のページ

ピックアップ記事

  1. 【フリーランス保護法対応セミナー】契約書ひな形や支払サイトの見直し、相談窓口の整…
  2. 就業規則に降給の規定を置けば給与の減額は可能?(東京地裁R5.12.14)
  3. 232名が一斉に退職前の有給消化を申請した場合に時季変更権行使が認められる?(大…
  4. 労働時間を自己申告させていた会社における安全配慮義務違反の判断事例(宮崎地裁R6…
  5. クレーム発生や不規則勤務・時間外労働がある場合の突然死は過労死?(宮崎地裁R6.…

関連記事

  1. 判例・裁判例コラム

    教師が生徒からチョコレートをもらうことは懲戒事由?

    東京地裁H23.4.15私立の中学・高校の社会科教師が①生徒からバレ…

  2. 判例・裁判例コラム

    解雇事由調査のための休職命令と賃金支払義務

    東京地裁R3.5.28会社が解雇理由の調査のために従業員に休…

  3. 判例・裁判例コラム

    住民票記載事項証明書の不提出を理由とする解雇の有効性

    東京地裁R6.9.25会社が自社が雇用した清掃作業者に再三にわたり住…

  4. 判例・裁判例コラム

    65歳以降の従業員の雇止めは65歳までの雇止めとどう違う?

    東京地裁R7.3.11 道路工事会社が定年後65歳までは再雇…

  5. 判例・裁判例コラム

    部下の上司に対するハラスメントについての懲戒処分

    東京地裁R6.3.21上司に、自身のパソコンの画面を見られて…

アーカイブ

  1. 判例・裁判例コラム

    会計資料の外部提供は「会社の重大な機密を社外に漏らしたとき」の懲戒解雇事由にあた…
  2. 判例・裁判例コラム

    製造業で年収800万円の部長の管理監督者性
  3. 判例・裁判例コラム

    外国人技能実習生の指導員について事業場外労働のみなし労働時間制の適用を否定した高…
  4. 判例・裁判例コラム

    高額な歩合給制度の問題点
  5. 判例・裁判例コラム

    同一労働同一賃金ルール違反を是正する際の経過措置が同一労働同一賃金ルール違反であ…
PAGE TOP