判例・裁判例コラム

不備のある定額残業代を就業規則変更によって有効にできる?

東京地裁R6.2.19
運送会社において多数の従業員が未払賃金請求。そこで、会社は、時間外職能給の名称で支給していた手当を含む各種手当を廃止し、定額残業代を設ける新給与体系に変更する就業規則変更を行った。説明会も開いて個別に同意も取得
→従来、時間外職能給の名称で支給されていた手当は、「社員個人の能力を考慮し加算される時間外割増、休日割増、深夜割増として支給する手当」と給与規程に定められていた。支給要件として時間外労働の有無以外の事由が要求されているように読め、時間外労働に対する対価として支払われていたとは認められない。また、給与体系変更に伴い廃止された他の手当も同様に時間外労働に対する対価だったとは認められない。
 そうであれば、これを廃止して定額残業代を設ける新給与体系は、これにより給与が増額になっていても、賃金の時間単価を大幅に下げるものである。変更の必要性も認められない。説明会は実施されているものの、十分な情報提供がされたとも認めがたい。従業員らが新給与体系の変更について自由な意思に基づいて同意したといえるためには、同意に先立って、新給与体系への変更により時間単価が減少するという不利益が発生する可能性があることを認識し得たことが必要。しかし、説明会における説明内容に照らせば、そのような不利益を認識し得たとは到底認められない。新給与体系への変更は認められないと判断。

自分自身が納得することを最優先し、会社業務への支障を生じさせる従業員の解雇前のページ

休職者が産業医の面談は圧迫面接だと主張した事案次のページ

ピックアップ記事

  1. 232名が一斉に退職前の有給消化を申請した場合に時季変更権行使が認められる?(大…
  2. 【フリーランス保護法対応セミナー】契約書ひな形や支払サイトの見直し、相談窓口の整…
  3. 就業規則に降給の規定を置けば給与の減額は可能?(東京地裁R5.12.14)
  4. 労働時間を自己申告させていた会社における安全配慮義務違反の判断事例(宮崎地裁R6…
  5. 業務命令に応じない従業員への対応事例(東京地裁R5.11.15)

関連記事

  1. 判例・裁判例コラム

    日常的な強い叱責がパワハラにはあたらないが安全配慮義務違反ありとされた事例

    徳島地裁H30.7.9銀行職員が自殺し、遺族はパワハラ自殺と主張。→…

  2. 判例・裁判例コラム

    外資系企業における整理解雇について判断した事例

    東京地裁R3.12.13外資系金融機関が月給350万円の本部長を整理…

  3. 判例・裁判例コラム

    労災認定されたが損害賠償責任は否定された事例

    大阪地裁R6.9.12派遣社員が、派遣先のマネージャーからの…

  4. 判例・裁判例コラム

    私傷病休職の期間を会社の判断で延長できる?

    大阪高裁H25.1.18 会社は、休職期間の延長は労働者に有利だから…

アーカイブ

  1. 判例・裁判例コラム

    復職可否の立証責任
  2. 判例・裁判例コラム

    自分自身が納得することを最優先し、会社業務への支障を生じさせる従業員の解雇
  3. 判例・裁判例コラム

    能力主義的賃金制度導入の失敗例
  4. 判例・裁判例コラム

    トラブルが絶えず、会社の信用を傷つける従業員に対して無給で出勤を禁止することがで…
  5. クレーム発生や不規則勤務・時間外労働がある場合の突然死は過労死?(宮崎地裁R6.5.15)

    判例・裁判例コラム

    クレーム発生や不規則勤務・時間外労働がある場合の突然死は過労死?(宮崎地裁R6.…
PAGE TOP