判例・裁判例コラム

レジ金横領を理由とする解雇

レジ金の紛失が続く会社でアリバイのない女性職員を解雇!裁判所の判断は?

名古屋地裁R2.2.28
動物病院を経営する会社が女性職員が約8か月の間にレジから合計約26万円を盗んだとして解雇した。この会社では顧客から支払いを受けたら、支払明細書の控えを保管していた。会社は以下を理由にこの女性職員が犯人であると主張。
①5月11日に現金で支払いをした顧客の診療費明細書の控えと現金がなくなっており、この時間帯に女性職員は出勤しており、窃取の機会があったこと
②5月11日の紛失発覚後も、この女性職員は院長に報告しなくてよいと述べるなど不自然な言動があったこと
③その後、過去231日間にさかのぼって確認したところ、診療明細書の控えが紛失している日は40日間あり、この40日をすべて出勤していたのはこの女性職員だけで、他の職員は5日以上欠勤していたこと、この女性職員の欠勤日には窃取がなかったこと
→①については同じ時間帯に出勤した他のスタッフによる窃取の可能性もあり、またレジは施錠されておらず、元従業員の侵入による犯行といった外部犯の犯行も完全には払拭できない
➁についてはそのような言動があった裏付けがない
③についてはこの女性職員の犯行であると見せかけるために明細書を誰かが隠すといった可能性も否定できない。また、調査内容の証拠化に膨大な作業が必要だとして、調査内容の証拠化がされておらず、上記の40日以外の日に紛失がないことの裏付けはされていない。
よって、解雇は無効と判断。解雇は性急かつ軽率な判断と言わざるを得ず、不法行為を構成し、会社はバックペイのほか慰謝料50万円の支払義務、女性従業員が受給できなかった約52万円の出産手当相当額の支払義務を負うと判断。

被害者名黒塗りの報告書ではパワハラ加害者を懲戒できない!東京地裁の判断前のページ

定年後再雇用 有期雇用の更新時に転勤を命じることの可否次のページ

ピックアップ記事

  1. 232名が一斉に退職前の有給消化を申請した場合に時季変更権行使が認められる?(大…
  2. 労働時間を自己申告させていた会社における安全配慮義務違反の判断事例(宮崎地裁R6…
  3. 【フリーランス保護法対応セミナー】契約書ひな形や支払サイトの見直し、相談窓口の整…
  4. 就業規則に降給の規定を置けば給与の減額は可能?(東京地裁R5.12.14)
  5. クレーム発生や不規則勤務・時間外労働がある場合の突然死は過労死?(宮崎地裁R6.…

関連記事

  1. 判例・裁判例コラム

    日本語能力の不足を理由に外国人大卒者を解雇した事例

    東京地裁R5.12.1日本企業がペルー出身の大卒者を採用した…

  2. 判例・裁判例コラム

    合同労組に加入する従業員に時間外労働を命じないことは不法行為?

    福岡地裁小倉支部R7.3.27運送会社に勤務する運転手らが合同労組に…

  3. 判例・裁判例コラム

    支払いすぎた賞与を翌年の賞与から控除できる?

    東京地裁R5.12.28外資系の医薬品販売会社が、従業員に対し、9月…

  4. 判例・裁判例コラム

    懲戒処分としての降格に伴い基本給、役付手当を減額することは有効か?

    東京高裁R3.6.23タイムカードを改ざんした部長を懲戒処分として次…

アーカイブ

  1. 判例・裁判例コラム

    トラブルが絶えず、会社の信用を傷つける従業員に対して無給で出勤を禁止することがで…
  2. 判例・裁判例コラム

    過半数代表選出において無投票者は有効投票による決定に委ねたものとみなすと定めた場…
  3. 判例・裁判例コラム

    試用期間中に2回の事故を起こし、ミスも改善されない従業員を実働10日で解雇した事…
  4. 判例・裁判例コラム

    私傷病休職からの復職者の症状が悪化したときの対応〜休職期間がもう残っていない場合…
  5. 判例・裁判例コラム

    役職手当を固定残業代と定める規定の有効性
PAGE TOP