判例・裁判例コラム

東京地裁R7.5.23

会社から退職勧奨を受けて退職合意書案を受諾すると返信した従業員が、その後、退職合意を白紙とするとメール。人事担当者はこれに対して受け入れない旨を返信。従業員は訴訟を起こし、退職合意は自由な意思によるものではないと主張した。
→退職勧奨に対する労働者の同意は、労働契約が終了する点で労働者に不利益であることが多いことを踏まえると、労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点からも判断されるべき。この点、本件退職合意は通常の退職金に加え1年分の賃金額を越える特別退職一時金の支払を伴うものであり、従業員に一方的に不利益とはいえない。また、従業員は退職日について会社と交渉し、退職日を合意日から6か月以上遅い時期にすることに成功しており、会社の要求にただ従うのではなく、会社と実質的な交渉をして一定の成果を得たうえで退職合意の承諾に至っている。また、退職合意書の最終案を伝えられて約2時間後に受託する内容のメールを送信しており、受託したくない気持ちが強いのにこれを抑えてメールを送信したとはいえない。人事担当者の情報の提供や説明が不適切あるいは不十分だったともいえない。退職合意の承諾が自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在すると判断。

退職勧奨で「ただですぐやめてもらう」のは、合意書がとれても危険です。
退職勧奨に対する労働者の同意について、「労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点からも判断されるべき」とする理論を採用するかどうかについては、裁判例が分かれています。
退職合意についてはこの理論は採用すべきでないと明示する裁判例も複数見られますが、ポストの裁判例ではこの理論を採用しつつ、特別退職一時金の支払をしていることや、退職日について会社が交渉に応じていることなどを指摘して、自由な意思ありと判断しました。
逆に言えば、退職勧奨で「有給も消化させずにただですぐやめてもらう」というような労働者にとって一方的に不利益な退職合意は、自由な意思を疑われることになり、仮に合意書がとれたとしても合意が認められない恐れがあります。
労働者の立場にも配慮した話合いが必要です。

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