判例・裁判例コラム

母親の危篤で勤務開始日の延期を求めた入社予定者!会社は延期要請を拒否。東京地裁の判断は“合意解約”成立?

東京地裁R7.6.5
 日本法人がインド在住のインド人男性との間で雇用契約書を作成。日本における勤務開始日を令和4年8月15日と定めた。男性は6月に日本への入国のための航空機を予約。しかし、7月14日に男性の母親が危篤となった。男性は、7月19日、日本法人に対して、母親の危篤を伝え、日本への渡航を1か月またはそれ以上延期し、インドで勤務させてほしいと申し出た。しかし、日本法人はこれを拒否し、8月15日に予定通り日本で勤務開始するか、入社を辞退するかを翌日7月20日までに連絡するように求めた。これに対し、男性は、可能であればインドに期限なくとどまり、インドにあるこの法人の孫会社に異動することを希望しますとメールで回答。日本法人はこれを踏まえて男性が日本法人に入社しないことについて承諾する内容のメールを返信し、その後、インドの孫会社も男性の入社を認めなかった。男性は日本法人に対して地位確認請求訴訟を提起。
→男性は、日本法人から8月15日の勤務開始か入社辞退かという2つの選択肢を示されたのに対し、インドにある孫会社への異動という第三者の選択肢を示したものであり、退職の意思表示をしたものではないと主張する。しかし、男性のメールが、日本法人との労働契約を存続させたままインドにある孫会社に異動するという選択肢を提供したものであると解するのは困難であり、男性の主張は採用することができない。男性の希望内容は、雇用契約書で合意された日本での勤務を履行しないことにほかならず、雇用契約書の合意の内容と両立しえず、日本法人との労働契約を終了させるという男性の意向が含まれていると認められる。男性と日本法人の間で労働契約を合意解約することについて意思表示が合致したと認められると判断し、男性の請求認めず。

 母親が危篤になったと連絡した男性に対し、会社は、入社辞退か、予定通り日本に渡航して入社かを選択して、翌日までに回答することを求めました。明確な対応が会社の勝訴につながった側面がありますが、個人的には男性が気の毒なようにも思ってしまいます。。何か配慮ができない事情があったのかもしれません。
 また、法的にみても、男性は、インドにあるこの法人の孫会社に異動することを希望しますとメールしており、これで男性が退職の意思表示をしたと評価してよいか、疑問もあるところです。会社側はもう少し突っ込んで確認しなければ危ないと思いました。
労働判例の最新号1343号に掲載されています。
 男性のお母さんはメールのやりとりの4日後に退院できたようです。

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