判例・裁判例コラム

労働契約法10条但書にいう「労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分」とは?

東京地裁H30.2.22
会社が月額42万9000円の給与で従業員を採用。
その後、会社は年功序列的賃金制度を改めて、人事評価に基づく給与減額を可能にする成果主義的給与体系を導入する就業規則変更を実施。
人事評価の結果に基づきこの従業員の賃金を減額した。
これに対し、従業員は、月額42万9000円の給与は採用面接時の個別交渉で決まったものであり、労働契約法10条但書にいう「労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分」にあたるから、変更後の就業規則を適用して賃金を減額することはできないと主張した
→労働契約法第10条但書が適用されるためには、就業規則によっては変更されないことについて、明示、明文で合意するまでの必要はないが、当事者間で、就業規則によっては変更されない労働条件としての合意が成立していると解釈、評価するに足りる事情が必要。
この点、本件では、この従業員が採用面接において前職の年俸が720万円であり、最低でも600万円が必要であると話し、これを受けて600万円を14か月で割って端数を切り上げて、月給額が42万9000円と決まった経緯がある。
しかし、他方で、①雇用契約書には、昇給、降給(降格)は就業規則によるとの定めがあり、就業規則において定められた仕組みに従って賃金額が変動することを前提としているみられること、②この従業員も通常の一般職員にすぎず他の従業員と異なる特別な労働条件を前提にした雇用とは認められないことなどを踏まえると、会社と従業員の間において、月給額について、就業規則の変更によっても変更されない労働条件として合意したと認めることはできない。
就業規則変更には合理性が認められ、変更後の就業規則も周知されているから、この従業員にも変更後の就業規則が適用されると判断

年功序列的賃金制度から成果主義的給与体系への就業規則変更を行った事案前のページ

派遣契約終了後も派遣先が見つからない無期雇用派遣社員に、賃金を切り下げたうえで派遣会社内での就業を命じることはできる?次のページ

ピックアップ記事

  1. クレーム発生や不規則勤務・時間外労働がある場合の突然死は過労死?(宮崎地裁R6.…
  2. 232名が一斉に退職前の有給消化を申請した場合に時季変更権行使が認められる?(大…
  3. 就業規則に降給の規定を置けば給与の減額は可能?(東京地裁R5.12.14)
  4. 業務命令に応じない従業員への対応事例(東京地裁R5.11.15)
  5. 労働時間を自己申告させていた会社における安全配慮義務違反の判断事例(宮崎地裁R6…

関連記事

  1. 判例・裁判例コラム

    ジョブ型雇用における能力不足解雇

    東京地裁H28.6.1海外証券会社の日本法人が営業職を解雇→本件労働…

  2. 判例・裁判例コラム

    調剤薬局で患者の感情を害する言動をする薬剤師を解雇した事案

    大阪地裁R6.2.22調剤薬局が経験者の薬剤師を採用。履歴書には「前…

  3. 判例・裁判例コラム

    労働時間を自己申告させていた会社における安全配慮義務違反の判断事例

    宮崎地裁R6.5.15平均月56時間の時間外労働をしていた係長が突然…

  4. 判例・裁判例コラム

    売上額に応じて支給される業績給は労基法施行規則19条6号の出来高払制賃金にあたる?

    東京地裁立川支部R5.8.9引越運送会社が運転手の給与について、基本…

  5. 判例・裁判例コラム

    日報を提出しない従業員に対するけん責処分

    東京地裁R6.5.30営業所長の再三の提出指示にもかかわらず、営業日…

アーカイブ

  1. 判例・裁判例コラム

    協調性欠如などの問題がある従業員に本箱の書籍(段ボール121箱分)の移動作業を命…
  2. 判例・裁判例コラム

    まじめな職員が業務を期限までに終えられないことを苦に自殺したことについて、積極的…
  3. 判例・裁判例コラム

    過半数代表選出にあたり無投票者は有効投票にみなすと定めた場合の効力
  4. 判例・裁判例コラム

    休職者が産業医の面談は圧迫面接だと主張した事案
  5. 判例・裁判例コラム

    自宅待機中の従業員に対する出社命令
PAGE TOP