判例・裁判例コラム

給与規程、労働契約書に明記された固定残業代が裁判所で否定された事例

福岡高裁R5.2.21

飲食店を経営する会社が、給与規程に「固定時間外手当は、予め時間外労働が見込まれる社員に対して支払う手当である。」「時間外勤務賃金として支払う勤務時間は社員毎に通知する。」と定めた。そのうえで、平成27年に作成した労働契約書の月給欄には基本給17万3316円、時間外手当2万6684円と記載、平成30年にも同内容の労働契約書を作成したうえで時間外手当は20時間の残業手当に相当する旨を追記
→①給与規程においては、時間外勤務賃金として支払う勤務時間は社員毎に通知すると規定されているにもかかわらず、平成30年作成の労働契約書に至るまで時間外勤務賃金として支払う勤務時間が契約書に明記されておらず、他にこれを通知した証拠はない。また、➁平成30年作成の労働契約書における時間外手当は20時間の残業手当に相当するとされており、これを超える時間外労働がされた場合には差額を支給することとなるが、会社の賃金台帳の残業時間の欄に時間の記載はなく、毎月の賃金計算時において残業時間が計算されていない。③ところが、時間外手当とは別に残業手当が毎月支払われており、しかも、残業時間20時間未満の月についてもこれが支払われている。
これらの事実からすると、上記時間外手当2万6684円は、給与規程や契約書の定めにかかわらず、実態として見ると、時間外労働等に対する対価として支払われているものとは認められないと判断

給与規程、労働契約書には固定残業代について必要な記載がされていましたが、裁判所が認めなかった事例です。
①の何時間分かの明示は判例上不要ですが、この事案では、「時間外勤務賃金として支払う勤務時間は社員毎に通知する。」と定めていた以上きちんとやる必要がありました。
②については、固定残業代を支給していても実労働時間の把握は当然必要であり、これをしなかった結果、時間に対して賃金を払うという固定残業代の前提になる考え方が採用されていないのではないかと疑われる原因になったと思われます。
そして、③も対価性が否定される理由になりました。この会社がなぜ固定残業代と別に残業手当を払っていたのかはわかりませんが、このような支離滅裂なことになる会社もありそうな気がします。

固定残業代が認められなかったときのデメリットについては以下の動画で解説していますので、併せてご参照ください。
https://youtu.be/Ya1-naPEd6E?si=SAqKrlnqTMjG22Gj

社内で上司に対する暴行事件!懲戒処分は刑事処分の結果を待つべきか?最高裁の結論前のページ

社外で勤務する従業員が休憩がとれていなかったとして割増賃金請求!東京地裁の判断!次のページ

ピックアップ記事

  1. 業務命令に応じない従業員への対応事例(東京地裁R5.11.15)
  2. 232名が一斉に退職前の有給消化を申請した場合に時季変更権行使が認められる?(大…
  3. 労働時間を自己申告させていた会社における安全配慮義務違反の判断事例(宮崎地裁R6…
  4. クレーム発生や不規則勤務・時間外労働がある場合の突然死は過労死?(宮崎地裁R6.…
  5. 就業規則に降給の規定を置けば給与の減額は可能?(東京地裁R5.12.14)

関連記事

  1. 判例・裁判例コラム

    カツオの荷抜き行為が発覚した売場係長に対する退職金不支給

    静岡地裁R6.5.23漁業協同組合の売場係長が、約3年間にわたり、水…

  2. 判例・裁判例コラム

    リハビリ勤務の規定をおけばリハビリ勤務を認める義務がある?

    大阪地裁H26.7.18会社が双極性障害等で3回目の休職をしていた休…

  3. 判例・裁判例コラム

    65歳以降の従業員の雇止めは65歳までの雇止めとどう違う?

    東京地裁R7.3.11 道路工事会社が定年後65歳までは再雇…

  4. 判例・裁判例コラム

    就業規則変更による勤務日変更の効力

    福岡地裁H13.8.9自動車学校が就業規則を変更し所定休日を日曜から…

アーカイブ

  1. 判例・裁判例コラム

    年俸制における賃金減額にはどのような規定が必要か?東京地裁の判断
  2. 判例・裁判例コラム

    35年以上続いた定期昇給を中止できる?
  3. 判例・裁判例コラム

    無断で直行直帰を繰り返す職員!“減給処分”はやりすぎ? -東京地裁が処分は無効と…
  4. 判例・裁判例コラム

    「週1回休ませてほしい」という主治医の診断書。会社は認める義務がある?【東京地裁…
  5. 判例・裁判例コラム

    産休からの復帰に際し、週5勤務から週1勤務に変更することを提案したことが適法とさ…
PAGE TOP