判例・裁判例コラム

1年単位の変形労働時間制を定める就業規則の不備

東京高裁R6.5.15
引っ越し業者が労使協定を締結して1年単位の変形労働時間制を採用
→労働基準法89条は、就業規則で始業及び終業の時刻並びに休日を定めることと規定しているから、1年単位の変形労働時間制を採用する場合にも、就業規則において、対象期間における各日の始業及び終業の時刻並びに休日を定める必要がある。ただし、対象期間を1か月以上の期間で区分して、その最初の期間についてのみ労働日及び労働日ごとの労働時間を特定し、その後の各期間については労働日数及び総労働時間を定める方法によることも可能である。しかし、この方法による場合は、少なくとも就業規則において、勤務の種類ごとの始業・終業時刻及び休日並びに当該勤務の組合せについての考え方、シフト表の作成手続及びその周知方法等を定めることが必要(平成11年1月29日基発45号)。
 これを本件についてみると、労使協定は締結され、就業規則にシフトが複数記載されている。しかし、就業規則においてシフトの組合せの考え方、公休予定表の作成手続及び周知方法等の定めはない。また、顧客の引っ越しの関係上個別の従業員ごとに就業規則にない早出・遅出のシフトも組まれていた。さらに、最初の期間以外について各期間の30日前までに従業員の公休予定表を作成・周知する取扱いが徹底されておらず、公休予定表の作成後も、従業員らの申出以外の理由により、公休予定日が変更されることがまれではなかった。変形労働時間制の定めは無効と判断

取締役が退職を申し出た従業員について「自閉症や対人恐怖症ではないかと言う人もいた」などと述べたことが違法とされた例前のページ

解雇事由調査のための休職命令と賃金支払義務次のページ

ピックアップ記事

  1. 232名が一斉に退職前の有給消化を申請した場合に時季変更権行使が認められる?(大…
  2. 【フリーランス保護法対応セミナー】契約書ひな形や支払サイトの見直し、相談窓口の整…
  3. 業務命令に応じない従業員への対応事例(東京地裁R5.11.15)
  4. 労働時間を自己申告させていた会社における安全配慮義務違反の判断事例(宮崎地裁R6…
  5. クレーム発生や不規則勤務・時間外労働がある場合の突然死は過労死?(宮崎地裁R6.…

関連記事

  1. 判例・裁判例コラム

    懲戒解雇の通知後に行った予備的普通解雇が無効とされた事案

    東京地裁R3.6.25職務怠慢やハラスメントを理由に従業員を懲戒解雇…

  2. 判例・裁判例コラム

    始業時刻前の出勤も賃金支払義務あり?さいたま地裁の判断

    さいたま地裁R4.7.29 看護師が早出残業の賃金請求。前時…

  3. 判例・裁判例コラム

    1000円の着服をした運転手の退職手当1200万円超を全額不支給にした事案

    最高裁R7.4.17京都市交通局に勤務するバス運転手が運賃1000円…

  4. 判例・裁判例コラム

    就業規則に休職期間の延長規定を設けた場合の効力

    大阪地裁R3.7.16社会福祉法人が就業規則で私傷病休職の期間につい…

  5. 判例・裁判例コラム

    適応障害による休職からの復職後も異常行動がある従業員に対する再休職命令の効力

    大阪地裁R2.7.9適応障害で休職していた従業員が復職後から異常行動…

アーカイブ

  1. 判例・裁判例コラム

    職種限定合意がある従業員に対する配転命令
  2. 判例・裁判例コラム

    解雇された従業員からの「指導が不十分であった」という主張を認めなかった事例
  3. 判例・裁判例コラム

    1年単位の変形労働時間制を定める就業規則の不備
  4. 判例・裁判例コラム

    初めて就業規則を作ったら“労働条件の不利益変更”!? 7時間半→8時間で会社が負…
  5. 判例・裁判例コラム

    派遣会社が派遣社員に競業避止義務を課すことに正当な目的はあるのか?
PAGE TOP