判例・裁判例コラム

1年以上服薬せずに日常生活を送っていた休職者の復職可否判断

名古屋地裁R3.8.23
躁うつ病(双極性障害)で休職していた休職者が復職を申し出たが、会社は認めず、休職期間満了により解雇した。
→休職者は復職を申し出た当時、1年以上服薬せずに日常生活を送り、生活リズムや気分が安定していたことは認められる。しかし、双極性障害は再発率が高いこと、休職者は過去に3回の精神疾患による休職をしていること、2年半以上も休職しており再出勤に伴うストレスは小さくないことからすれば、それだけでは復職可能とは認められない。産業医による面談の際の受け答えからは、休職者には休職が仕事に対する不安、焦りによるものであることについての認識が欠如していることがうかがえ、復職に固執するあまり、自己の現状を分析し、復職後に発生しうる問題やストレスを想定して対処法を検討することができていない。病気の受容や対処法に関して認知行動療法が効果を上げていたとはいい難く、生活環境の変化や、業務による負荷がかかった際に、双極性障害の症状を再発させるおそれがある。

この点、主治医は復職可と診断し、再発の可能性について「ほとんどない」、就業上の配慮・制限への意見として「特になし、リハビリ勤務不要」と記載している。しかし、主治医のカルテには、例えば休職者が会社に提出する状況報告書について「これではダメ(通らない)」「こちらで叩き台を作成する!」と記載するなどしていることからすれば、主治医の診断は休職者の再出勤への強い希望に過度に影響された可能性がある。解雇は有効と判断。

☆産業医は、「休職者が主治医の判断を待たず自己判断で服薬を中止する、主治医の入院の勧めに従わない、診断書を取得するために受診するといった、自己中心的に医療を利用する態度が見られ、これらは復職を不可とする事情として考慮するべきである」などとしていた事案です。

パソコンの共有フォルダに保存した就業規則の効力前のページ

退職後6か月間、半径2キロ以内での独立開業を禁止する競業避止規定の効力次のページ

ピックアップ記事

  1. 業務命令に応じない従業員への対応事例(東京地裁R5.11.15)
  2. 労働時間を自己申告させていた会社における安全配慮義務違反の判断事例(宮崎地裁R6…
  3. 【フリーランス保護法対応セミナー】契約書ひな形や支払サイトの見直し、相談窓口の整…
  4. 就業規則に降給の規定を置けば給与の減額は可能?(東京地裁R5.12.14)
  5. クレーム発生や不規則勤務・時間外労働がある場合の突然死は過労死?(宮崎地裁R6.…

関連記事

  1. 判例・裁判例コラム

    適応障害で休職し、東京本社に復職した従業員に対する、仙台への転勤命令の可否

    東京地裁R5.12.28適応障害で休職していた従業員が東京本社に復職…

  2. 判例・裁判例コラム

    ハラスメント調査に求められる中立性・公平性について判示した裁判例

    東京地裁R1.11.7大声での執拗な叱責等がパワハラにあたるとして訓…

  3. 判例・裁判例コラム

    過半数代表選出にあたり無投票者は有効投票にみなすと定めた場合の効力

    松山地裁R5.12.20大学が過半数代表者選出規程に、信任投票で投票…

  4. 判例・裁判例コラム

    自宅待機状態を続けさせたことが違法な退職勧奨であるとされた事例

    東京地裁R6.4.24嫌いな人物はとことん追い詰める、高圧的な態度で…

  5. 判例・裁判例コラム

    ハラスメント調査への不服を経営陣らに送り続ける社員の解雇

    東京地裁R6.6.27 従業員が人事部に対してハラスメントの被害を申…

アーカイブ

  1. 判例・裁判例コラム

    試用期間満了20日前の解雇が解雇の選択の時期を誤ったものであり無効と判断された事…
  2. 判例・裁判例コラム

    残業許可制について厳格な運用をしていたと認められた事例
  3. 判例・裁判例コラム

    郵便局職員の制服への着替え時間は労働時間?
  4. 判例・裁判例コラム

    製造業で年収800万円の部長の管理監督者性
  5. 判例・裁判例コラム

    主治医は復職可能・指定医は回復は一時的で復職不可と診断した場合の復職可否判断事例…
PAGE TOP