判例・裁判例コラム

威圧的な暴言を吐き、出勤停止処分にも従わない従業員の解雇は有効?岡山地裁の判断

岡山地裁R7.4.24

従業員が、組合の要求に応じない代表取締役に「おどれ経営者でも何でもねえ、こら。社長でも何でもねえ。」などと暴言を吐き、2日間の出勤停止処分を受けた。
しかし、この処分中に社屋に立ち入り、「従う気はありません」などと述べたため、会社はこれについて4日間の出勤停止処分をした。 しかし、その約1年半後にも、社長室を訪問して、退出するよう命じられたにもかかわらず、およそ15分間にわたって従わず、威圧的な態度を示しながら自らの要求を繰り返しその場に滞留し続けるトラブルを起こし、1日間の出勤停止処分を受けた。
そして、この処分に対して、社屋に入り、代表取締役から退去するよう命じられたにもかかわらずその場に滞留し、代表取締役を廊下の隅に追い込むなどして、代表取締役に顔を近づけながら「こんなことして調子乗るなよ、バカ」などと述べて説明を求め続けた。そのため、会社は、これについて3日間の出勤停止処分をした。
しかし、この出勤停止処分にも抗議し、代表取締役から退室を求められたがこれに応じなかったため、代表取締役が警察に連絡。警察官が臨場し、ようやく部屋から退室。さらにその翌日にも出勤停止処分中であるのに社屋に立ち入った。そこで、会社はこの従業員を普通解雇。 これに対し、従業員は抗議として許される範囲内であり、普通解雇は無効であると主張して訴訟を提起した。
→このような経緯を踏まえると、客観的にみて、会社が、もはやこの従業員に業務上の命令の遵守を期待できないと判断することには合理性がある。また、従業員が出勤停止に従わず社屋に立ち入ったのは、従業員の労務の遂行能力や態様そのものとは関わりのない従業員独自の判断に基づくものであるから、会社が、配置転換により改善を期待することができないと判断することにも合理性がある。会社は、出勤停止に従わなかったにもかかわらず、より重い懲戒解雇ではなく、普通解雇している。解雇有効と判断

出勤停止の懲戒処分については以下で解説していますのでご参照ください。
https://kigyobengo.com/media/useful/2184.html

出勤停止の懲戒処分に従わずに社屋に立ち入る事案の対応として参考になる点がつまった裁判例です。
このように、出勤停止の懲戒処分に従わずに社屋に立ち入る場合は、明確に退去を求め続ける、トラブルになる場合は通報する、そして出勤停止処分に従わなかったことに対する懲戒を必ずやることが必要です。
本件の代表取締役や会社の対応は適切ですね。 事案としてさすがに解雇有効で当然という気かしますが、そう感じられるのも、会社が上記の対応をきちんとやっていたからだと言えます。出勤停止処分に従わなくても懲戒せずに放置したり、逆に懲戒を重ねる前に社長がキレてしまって解雇してしまったりすると、結論が違ったかもしれません。

復職可否の診断書が障害年金診断書と矛盾!東京地裁の判断前のページ

キャバクラ嬢は労働者?割増賃金請求できるのか?次のページ

ピックアップ記事

  1. 業務命令に応じない従業員への対応事例(東京地裁R5.11.15)
  2. 就業規則に降給の規定を置けば給与の減額は可能?(東京地裁R5.12.14)
  3. 232名が一斉に退職前の有給消化を申請した場合に時季変更権行使が認められる?(大…
  4. 労働時間を自己申告させていた会社における安全配慮義務違反の判断事例(宮崎地裁R6…
  5. 【フリーランス保護法対応セミナー】契約書ひな形や支払サイトの見直し、相談窓口の整…

関連記事

  1. 判例・裁判例コラム

    職場内での悪影響を理由に復職不可とできる?

    横浜地裁H30.5.10うつ状態と適応障害で休職中の職員について主治…

  2. 判例・裁判例コラム

    適応障害による休職者の復職可否判断

    大阪地裁R6.5.21会社が適応障害による休職者について復職を認めず…

  3. 判例・裁判例コラム

    年俸制における賃金減額にはどのような規定が必要か?東京地裁の判断

    東京地裁R7.6.5 ソフトウェア開発会社が公認会計士資格をもつ労働…

  4. 判例・裁判例コラム

    通勤中に立ち寄ったコンビニで転倒して負傷した場合の労災請求

    東京地裁R6.6.27出勤途中で立ち寄ったコンビニ内で転倒し、腰椎捻…

  5. 判例・裁判例コラム

    外資系企業における整理解雇について判断した事例

    東京地裁R3.12.13外資系金融機関が月給350万円の本部長を整理…

  6. 判例・裁判例コラム

    在職中の成果物を削除した退職者に対して会社が損害賠償請求した事例

    徳島地裁R7.1.16メーカーに勤務して開発業務に従事してい…

アーカイブ

  1. 判例・裁判例コラム

    1件150円で朝9時から夜9時まで担当エリアの配送を担当する契約は労働契約?大阪…
  2. 判例・裁判例コラム

    就業規則に定められた定年延長手続をしないまま、定年後も勤務を続けさせた場合の判断…
  3. 判例・裁判例コラム

    在宅勤務日のさぼり行為が発覚した場合に解雇できる?
  4. 判例・裁判例コラム

    訴訟をすれば有給休暇の時効がとまる?
  5. 判例・裁判例コラム

    まじめな職員が業務を期限までに終えられないことを苦に自殺したことについて、積極的…
PAGE TOP