判例・裁判例コラム

適応障害で休職し、東京本社に復職した従業員に対する、仙台への転勤命令の可否

東京地裁R5.12.28
適応障害で休職していた従業員が東京本社に復職。会社は復職から16か月後に仙台支店への転勤を命じた。従業員は、転勤により、新しい環境で人間関係を構築することが求められることになり負担は大きいし、以前から通院していた精神科に通えなくなり病状が悪化する可能性もあるとして、転勤を拒否
→会社は、転勤命令の前に、産業医を介して従業員の主治医に対し、時間外労働・休日労働の禁止、出張業務の禁止及び車両運転の禁止といった配慮事項が引き続き必要か否かを確認したところ、主治医は、会社に対し、配慮事項として昼食を12時から13時の間に本人に取らせることのみが必要と回答している。また、従業員は、会社の産業医と面談した際、服用している薬が減って調子が良い旨述べた。産業医はこれらを踏まえて、会社に対し、自動車の運転が必須ではなく精神科への通院が楽な大都市圏であれば異動しても問題ない旨の意見を述べている。会社は、転勤命令の発令前に、主治医及び産業医の意見を聴取するといった適切な手続を踏んだといえるし、当時の従業員の健康状態を踏まえれば転勤命令が従業員の健康に与える影響は大きくなかったといえる。
 一般論としては、精神障害を発病した者に対する転居を伴う異動は慎重に行うべきといえるものの、会社としてはこの従業員に対しこれまで特例による恩恵的措置を講じるなど十分に配慮してきており、こうした措置をいつまでも続けることを求めることはできない。転勤を命じる業務上の必要性が高く、転勤命令に不当な動機・目的はない。転勤命令は有効と判断。

パソコンの共有フォルダに保存した就業規則の効力前のページ

退職後6か月間、半径2キロ以内での独立開業を禁止する競業避止規定の効力次のページ

ピックアップ記事

  1. 労働時間を自己申告させていた会社における安全配慮義務違反の判断事例(宮崎地裁R6…
  2. 就業規則に降給の規定を置けば給与の減額は可能?(東京地裁R5.12.14)
  3. 業務命令に応じない従業員への対応事例(東京地裁R5.11.15)
  4. 【フリーランス保護法対応セミナー】契約書ひな形や支払サイトの見直し、相談窓口の整…
  5. クレーム発生や不規則勤務・時間外労働がある場合の突然死は過労死?(宮崎地裁R6.…

関連記事

  1. 判例・裁判例コラム

    適応障害による休職からの復職にあたり賃金を減額した事案

    東京地裁R5.12.28適応障害による休職からの復職にあたり、賃金が…

  2. 判例・裁判例コラム

    ジョブ型雇用の従業員について、担当業務が廃止された場合の解雇の有効性

    東京地裁R6.9.20メガバンクが、職務内容をジャパンストラテジスト…

  3. 就業規則に降給の規定を置けば給与の減額は可能?(東京地裁R5.12.14)

    判例・裁判例コラム

    就業規則に降給の規定を置けば給与の減額は可能?(東京地裁R5.12.14)

    事件の概要給与規程において、「業務内容の変更に伴い、その業務…

  4. 判例・裁判例コラム

    自宅待機中の従業員に対する出社命令

    東京地裁R6.4.24嫌いな人物はとことん追い詰める、高圧的な態度で…

アーカイブ

  1. 判例・裁判例コラム

    残業代の支払期日
  2. 判例・裁判例コラム

    通勤中の電車内で盗撮行為を行った課長を懲戒解雇した事案(控訴審)
  3. 判例・裁判例コラム

    ジョブ型雇用の会社でジョブが廃止されたことによる整理解雇は有効?
  4. 判例・裁判例コラム

    有期雇用の従業員との退職合意
  5. 判例・裁判例コラム

    営業担当者について退職後6か月間に限って同業他社への就職を禁止する誓約書の効力
PAGE TOP