判例・裁判例コラム

就業規則変更による勤務日変更の効力

福岡地裁H13.8.9
自動車学校が就業規則を変更し所定休日を日曜から月曜に変更。
→日曜を休日とする職種が多く、他の就労家族や平日に学校に通う子供との交流に支障が生じるが、日曜が休日でない職種も少なくなく、教習生が漸減し休日教習の実施が経営上必要であったことを踏まえれば合理性ありと判断。

事件名 九州自動車学校事件
出典
判時 1759号141頁
労判 822号78頁
労経速 1790号3頁(53巻6号)

(1) 所定休日の変更
 ア 不利益性
 一般的には日曜日を休日とする職種が多く、公立学校の休日も日曜日及び土曜日であるから、休日が月曜日に変更されたことにより、原告組合員らの一週間の生活サイクルに一時的な変動をきたし、日曜日が休日である他の就労家族や学齢にある子供との交流に一定の支障が生じることは容易に推認し得るところである。しかし、日曜日が休日ではない職種や休日が不定期の職種に従事する者も少なからず存在し、これらの人々の社会生活や家族生活に何らかの深刻な悪影響が現に生じていることを認めるに足りる証拠はなく、また、第三次産業の比率が増大し、これに従事する者が多数となっていく傾向のもとでは、休日の多様性はますます拡大していくものと考えられ、したがって、日曜日が休日でなくなることによる労働者の不利益は、ないとはいえないものの、重大なものとはいえないというべきである。
 イ 合理性
 《証拠省略》によれば、北九州市内の他の自動車教習所で日曜教習を行うものが増加しつつあり、また、被告の普通車課程入校生は平成元年以降おおむね漸減傾向にあることが認められ、少子化傾向のもとで今後受講生の争奪競争が激化すると考えられることにも照らし、休日教習の実施は被告の経営にとって十分必要性があったものと認められる。
 また、日曜日を休日とする職種が多いということは、日曜日に教習が行われることによって便宜を受ける受講者も多いということであり、現時、市役所の公証事務等の住民向け公的サービスを日曜日にも行うことのニーズが高まり、これに対応することが社会的な要請となりつつあることは周知のとおりであり、自動車運転免許の取得が一般化し、これに向けての民間教習所における教習が重要不可欠な社会教育の一環として定着している現状に鑑みると、受講希望者の便宜を図り、教習を受けやすい態勢を整えることの社会的意義は大きいということができる。
 ウ してみれば、被告において、本件就業規則により、所定休日を日曜日から月曜日に変更したことには合理性があると認められる。

就業規則の変更方法については以下でも解説しています。
就業規則の変更方法は?手続きと不利益変更・同意書取得などの注意点を解説 – 咲くやこの花法律事務所

パソコンの共有フォルダに保存した就業規則の効力前のページ

退職後6か月間、半径2キロ以内での独立開業を禁止する競業避止規定の効力次のページ

ピックアップ記事

  1. 業務命令に応じない従業員への対応事例(東京地裁R5.11.15)
  2. 【フリーランス保護法対応セミナー】契約書ひな形や支払サイトの見直し、相談窓口の整…
  3. 就業規則に降給の規定を置けば給与の減額は可能?(東京地裁R5.12.14)
  4. クレーム発生や不規則勤務・時間外労働がある場合の突然死は過労死?(宮崎地裁R6.…
  5. 労働時間を自己申告させていた会社における安全配慮義務違反の判断事例(宮崎地裁R6…

関連記事

  1. 判例・裁判例コラム

    役員としての重大な不正を理由に従業員としての退職金を不支給にできる?

    東京地裁R6.1.29学校法人において教授等を務めていた職員が大学の…

  2. 判例・裁判例コラム

    パソコンの共有フォルダに保存した就業規則の効力

    東京地裁H31.3.25 派遣会社が、就業規則で退職後に自社の機密情…

  3. 判例・裁判例コラム

    年功序列的賃金制度から成果主義的給与体系への就業規則変更を行った事案

    東京地裁H30.2.22家庭教師派遣事業などを行う会社が、年功序列的…

  4. 判例・裁判例コラム

    サイボウズの記録に基づく残業代請求が認められなかった事例

    東京地裁R7.1.17建設業者で職人の手配や現場の管理などを…

  5. 判例・裁判例コラム

    ジョブ型雇用の会社でジョブが廃止されたことによる整理解雇は有効?

    東京地裁R4.4.12ジョブ型雇用の外資系金融機関で部門廃止により人…

  6. 判例・裁判例コラム

    休職期間満了による退職を6か月経過してから通知した事例

    東京地裁R6.5.28休職者が復職を希望したため、会社は復職…

アーカイブ

  1. 判例・裁判例コラム

    産業医がいる会社の復職可否判断
  2. 判例・裁判例コラム

    他の勤務先での就業状況を知らなかった場合でも通算による割増賃金の支払義務があるか…
  3. 判例・裁判例コラム

    労働者代表の同意を得て労基署長に届け出たが周知されていない就業規則に基づく懲戒解…
  4. 判例・裁判例コラム

    20年以上勤続のドラッグストア店長が4201円の不正取得等により懲戒解雇された事…
  5. 判例・裁判例コラム

    暴力を伴うパワハラについて被害者の復帰までに加害上司を配置転換する義務があったと…
PAGE TOP