判例・裁判例コラム

小学校4年生の子を育てる看護師からの夜勤免除申請に病院は応じる義務を負うか?

名古屋地裁R7.1.22

大学病院に約14年勤務し、ICUに配属されていた看護師が、夫と小学校4年生の子と同居していたが、夫の単身赴任により夜勤が困難になったとして夜勤免除希望の申し出をした。その後、病院が夜勤免除の措置を講じずに退職勧奨をしたことは違法であるとして損害賠償請求の訴訟を起こした。
→病院はこの看護師の採用にあたり、応募資格として「夜勤ができる方」と明示し、夜勤ができることを条件に採用している。よって、病院はこの看護師に夜勤に従事するよう命令をすることができる。もっとも、職員から夜勤の免除を希望する申出があった場合において、業務の体制上、合理的な範囲でシフト調整等の方法による夜勤の一部免除等が可能であるにもかかわらず、そのような措置を講じない結果、職員が不利益を受ける場合には、病院の当該職員に対する労働契約上の義務違反が生じ得る。この点、病院の師長らは、夜勤免除申出を受けて、この看護師に、夜勤ができない期間や最低月2回の夜勤は可能か否かを確認しているところ、その際のやり取りを踏まえると、看護師は、夜勤ができない期間を明確にすれば月2回までであれば夜勤軽減措置の検討の余地があることについて容易に認識し得た。このような状況において、看護師は、自らの家庭の状況や配偶者との相談状況等を病院に具体的に説明することなく、夜勤ができない期間は未定であり、月2回の夜勤も無理である旨の回答に終始し、これ以上の情報提供をしなかったというのであるから、病院において、夜勤減免に関して更なる調整の余地を見出すのは困難であったと認められる。このことに加え、病院は、夜勤免除申出を受けた後、夜勤のない部署への異動の可能性を検討し、夜勤の再開の目途が立たない状況では、これが困難であることも看護師に伝えている。よって、病院は、夜勤免除申出に関し、看護師に対して労働契約上求められる義務を尽くしたといえる。退職勧奨も社会的相当性を逸脱した態様で行われたとはいえず、違法とは言えないと判断。

ストーカー被害の申告を延々と繰り返す事務職員に対する懲戒処分前のページ

会社からタイムカード打刻を義務付けられている営業部長の管理監督者性次のページ

ピックアップ記事

  1. 232名が一斉に退職前の有給消化を申請した場合に時季変更権行使が認められる?(大…
  2. 業務命令に応じない従業員への対応事例(東京地裁R5.11.15)
  3. 労働時間を自己申告させていた会社における安全配慮義務違反の判断事例(宮崎地裁R6…
  4. 就業規則に降給の規定を置けば給与の減額は可能?(東京地裁R5.12.14)
  5. クレーム発生や不規則勤務・時間外労働がある場合の突然死は過労死?(宮崎地裁R6.…

関連記事

  1. 判例・裁判例コラム

    残業代の支払期日

    さいたま地裁H29.4.6就業規則で職員の給与について毎月末日締め当…

  2. 判例・裁判例コラム

    有給取得取得予定日前日の時季変更権行使

    札幌高裁R6.9.13ホテルの宿泊部部長がハワイで挙行される娘の結婚…

  3. 判例・裁判例コラム

    キャバクラ嬢は労働者?割増賃金請求できるのか?

    東京地裁R7.6.25キャバクラ嬢(キャスト)が自分は業務委…

  4. 判例・裁判例コラム

    部下3名(正社員1名、派遣社員2名)の部長の管理監督者性

    東京地裁R6.3.28太陽光発電システムの設計、販売等を事業とする会…

  5. 判例・裁判例コラム

    職場内で秘密録音したデータを民事訴訟の証拠として利用できる?

    東京高裁R5.10.25歯科医院に勤務する職員が、理事長が院内で自身…

アーカイブ

  1. 判例・裁判例コラム

    勤務中の読書に対する叱責はパワハラ?東京地裁の判断
  2. 判例・裁判例コラム

    退職後6か月間、半径2キロ以内での独立開業を禁止する競業避止規定の効力
  3. 判例・裁判例コラム

    リハビリ勤務の規定をおけばリハビリ勤務を認める義務がある?
  4. 判例・裁判例コラム

    小学校4年生の子を育てる看護師からの夜勤免除申請に病院は応じる義務を負うか?
  5. 判例・裁判例コラム

    カツオの荷抜き行為が発覚した売場係長に対する退職金不支給
PAGE TOP