判例・裁判例コラム

入社前日の電話で内定が取消しに! それでも「有効」とされた理由とは?

東京地裁R7.7.30
 コロナ禍に眼科医院が30代の女性看護師に内定の連絡。月給40万円、8月2日を入社日とした。しかし、看護師は、入社前日の8月1日の朝、眼科医院に電話をかけ、のどの不調を訴えた。その後、昼過ぎに看護師は再び眼科医院に電話。自分で抗原検査を実施したところ、新型コロナウィルス感染症の陽性反応が出たこと、もっとも、保健所によれば、発症日の2日前から起算して10日経過後であれば勤務可能であると確認が取れたと説明。8月4日からの勤務を希望すると伝えた。これに対し、院長は8月10日から14日まで夏季休暇であるとして、8月15日からの勤務開始を提案。しかし、看護師から、勤務開始日は8月4日であり、保健所に確認しているから間違いないと強い口調で言われ、院長は、とにかく院内感染を防がなければならないこと、8月4日を勤務開始日とすることはどのように考えてもあり得ないなどと伝え、なだめようとした。しかし、看護師は8月4日から勤務を開始すると主張してゆずらなかったため、院長はこの電話で看護師の内定を取り消した。
→当時の厚労省のWEBサイトでは「症状が出た日から7日間以上経過、かつ症状軽快から24時間以上経っていれば、検査なしで職場等への復帰可能」、症状が出た日とは「発症日が明らかでない場合には、陽性が確定した検体の採取日とする」と記載されていた。看護師が主張した療養期間の考え方は、当時の一般的なコロナ療養期間の考え方と相違しており、合理的なものではなかった。また、発症日に関しても、看護師は、7月27日を発症日としているが、陽性の判定の出た8月1日より前の日を発症日として扱う合理的な根拠はなく、看護師の対応は、発症日の点においても不合理。
 看護師が8月4日からの勤務開始を譲らなかったことは、高齢者や基礎疾患を有し、新型コロナウィルス感染症にり患した場合に重篤化するリスクのある患者が多く通院する本件医院において、院内感染を引き起こしかねない行為をすることを求めるものであったといわざるを得ない。看護師資格を有し、看護業務に従事するために採用された者であって、院内感染のリスクについては、医院からも電話のやり取りにおいて説明されていたにも関わらず8月4日からの勤務開始を譲らなかったことを踏まえれば、就業規則の普通解雇事由「特定の資格、職種又は一定の能力を条件として雇い入れられた者で、その適格性が欠けると認められるとき」にあたる。内定取消しは有効と判断。

 内定取り消しに関するルールを以下でも解説していますのでご参照ください。
https://kigyobengo.com/media/useful/1742.html

 入社前日の1本の電話の中で内定を取り消したという事例であり、なかなか危うい感じもしますが、裁判所の判断は妥当だと考えます。
 コロナ禍で院内感染防止が非常に重要とされていた中で、医療資格者である看護師が院内感染を引き起こしかねない行為をすることを求めたという点は、資質を欠くと判断されてもやむを得ないでしょう。そして、このような点は採用時にはわからなかったことでした。 院長がいきなり内定を取り消すのではなく、取消し前に、とにかく院内感染を防がなければならないことなどを説明して説得していたことも、内定取消しが有効と判断される一事情となりました。

逮捕・勾留中でも「弁明の機会」は必要? 懲戒解雇が有効とされた学校の対応とは【大阪地裁】前のページ

「要介護者が施設に入ったから介護休業は終了?」 ―東京地裁が会社の“独自判断”を否定。手厚い介護休業規程が“裏目”に出た事案次のページ

ピックアップ記事

  1. 業務命令に応じない従業員への対応事例(東京地裁R5.11.15)
  2. 就業規則に降給の規定を置けば給与の減額は可能?(東京地裁R5.12.14)
  3. 労働時間を自己申告させていた会社における安全配慮義務違反の判断事例(宮崎地裁R6…
  4. 【フリーランス保護法対応セミナー】契約書ひな形や支払サイトの見直し、相談窓口の整…
  5. 232名が一斉に退職前の有給消化を申請した場合に時季変更権行使が認められる?(大…

関連記事

  1. 判例・裁判例コラム

    半期ごとの業績評価により賃金を最大2割減額する規定の効力

    東京地裁R6.8.8半期(4〜9月、10月〜3月)ごとに成績…

  2. 判例・裁判例コラム

    郵便局職員の制服への着替え時間は労働時間?

    神戸地裁R5.12.22郵便局職員の制服への着替え時間は労働時間?→…

  3. 判例・裁判例コラム

    注意指導を受けている最中に、その様子を無断録画した職員の解雇

    東京地裁R6.10.24学校法人が社会科の教員を解雇。①校内で入試の…

  4. 判例・裁判例コラム

    名古屋地裁R5.1.16

    病院職員が理事長によるセクハラを訴えた →職員が診断書について理事長…

  5. 判例・裁判例コラム

    懲戒解雇の通知後に行った予備的普通解雇が無効とされた事案

    東京地裁R3.6.25職務怠慢やハラスメントを理由に従業員を懲戒解雇…

アーカイブ

  1. 判例・裁判例コラム

    ホテルに住み込みで運営を行う支配人は労働者?東京地裁は割増賃金の支払義務否定!判…
  2. 判例・裁判例コラム

    結婚の予定を聴くのはハラスメントか?50歳男性社員に対する減給処分。東京地裁の判…
  3. 判例・裁判例コラム

    パワハラ加害者による調査協力拒否、調査妨害を理由とする普通解雇の有効性
  4. 判例・裁判例コラム

    院内携帯を持たされていた医師! 食事・仮眠も「全部労働時間」!東京地裁の判断!
  5. 判例・裁判例コラム

    タクシー会社で一定時間を超える駐停車時間は休憩時間と扱う旨を就業規則で定めること…
PAGE TOP