判例・裁判例コラム

「転勤したくないなら給料15%カット」は違法? 東京地裁の判断!

東京地裁H25.3.26
全国、海外に事業所をもつ医薬品製造会社が、従来の就業規則になかった勤務地限定制度規程を導入。
勤務地限定コースを従業員が選択した場合、
・地域ブロック内限定コースなら基本給が95%
・通勤圏限定コースなら基本給が85%
になる内容。
従業員は、制度導入前は、転勤を拒否しても賃金が下がることがなかったが、導入後は、5%、15%という大幅な賃金減額があり、不利益変更にあたり、無効であると主張した。
→勤務地限定コースを従業員が選択した場合、賃金という基本的労働条件が切り下げられたのであり、本件制度の導入は就業規則の不利益変更にあたる。
そこで、勤務地が限定されることの利益と5%または15%の減給及びそれに伴う退職金や年金の減額という不利益が均衡しているかどうかについて検討する。
この点、一定区域外への配転命令を受けることがないという利益を金銭に換算する基準はないし、各人の価値観やそのとき置かれた状況によって受け止め方は様々である。
共働きや子育て中、介護中の従業員の中には上記の利益を大きなものと受け止める者もいるはずであって、5%または15%の減給幅を直ちに不当ということはできない。
制度導入時に減給幅に対して異論が唱えられたというような事情も見当たらないことに照らすと、上記利益と不利益は均衡を失していないというべきである。
そして、選択肢を広げることによって、価値観やライフスタイルの多様化に応じた柔軟な働き方を認めることにつながるのであって、従業員の勤務地域を限定する選択肢を設ける必要性が認められる。
本件制度の内容が勤務地域限定制度を導入した他社の制度に比較して労働者に不利益なものになっているという事情は見当たらないこと、就業規則変更の手続に瑕疵はないことを併せ考慮すれば、本件制度に伴う就業規則変更の合理性は認められると判断。

従業員にとって新たに勤務地限定という選択肢が増えただけで、自由に選べるのであれば、不利益はないという見方もあり得るところですが、この裁判例は、勤務地限定正社員制度の導入が、不利益変更にあたると評価しました。
そうすると、制度導入の必要性や制度内容について労働組合や従業員に丁寧に説明し、納得を得る努力をすることが重要になるといえるでしょう。
また、判示内容からすれば、
・勤務地限定の利益と賃金減額との均衡がとれた制度にすること
・同業他社と比較して著しく不利益な制度にしないこと
にも留意すべきだということになります。
最近では、無期雇用労働者間についても均等・均衡待遇ルールが公序として確立しているとしたうえで、賞与・家族手当・住宅手当の待遇格差について違法と判断した裁判例もでています(仙台高等裁判所判決令和7年9月11日)。これを踏まえると、勤務地限定正社員制度を設計する際にも通常の正社員との待遇の均衡に注意すべきということになると考えられます

どこが間違っているか教えずに“誤字脱字全部見直せ”はパワハラ? 宮崎地裁の判断!前のページ

学校改革に反対した教員13人を懲戒処分! 裁判所「反対意見があっても従う義務がある」次のページ

ピックアップ記事

  1. 労働時間を自己申告させていた会社における安全配慮義務違反の判断事例(宮崎地裁R6…
  2. 232名が一斉に退職前の有給消化を申請した場合に時季変更権行使が認められる?(大…
  3. 【フリーランス保護法対応セミナー】契約書ひな形や支払サイトの見直し、相談窓口の整…
  4. 就業規則に降給の規定を置けば給与の減額は可能?(東京地裁R5.12.14)
  5. 業務命令に応じない従業員への対応事例(東京地裁R5.11.15)

関連記事

  1. 判例・裁判例コラム

    些細なミスを広範に注意した後の能力不足解雇

    東京地裁R4.2.2職員約900名の法人が新卒者を月給約21…

  2. 判例・裁判例コラム

    「長すぎる休職制度」を見直した病院が敗訴! 裁判所が問題視した点とは?

    京都地裁R7.10.2病院が就業規則の私傷病休職の規定を変更変更前は…

  3. 判例・裁判例コラム

    総合職にのみ社宅利用を認め、一般職には認めないことは間接性差別?

    東京地裁R6.5.13会社は、住居の移転を伴う転勤に応じるこ…

  4. 判例・裁判例コラム

    通勤中の電車内で盗撮行為を行った課長を懲戒解雇した事案

    名古屋地裁R6.8.8課長が通勤中の電車内で口を開いたリュッ…

アーカイブ

  1. 判例・裁判例コラム

    社内で上司に対する暴行事件!懲戒処分は刑事処分の結果を待つべきか?最高裁の結論
  2. 判例・裁判例コラム

    わずか4201円でも懲戒解雇は有効 …店長の“売上操作”に裁判所が判断
  3. 判例・裁判例コラム

    1件150円で朝9時から夜9時まで担当エリアの配送を担当する契約は労働契約?大阪…
  4. 判例・裁判例コラム

    精神疾患による休職を隠して応募した労働者。試用期間中の解雇は有効か?東京地裁の判…
  5. 判例・裁判例コラム

    正社員は賞与5カ月、嘱託社員はゼロ →最高裁“それでも違法ではない”と判断
PAGE TOP