判例・裁判例コラム

はじめての就業規則で定年制を新設→無効とされバックペイ約8700万円!東京地裁の判断の理由とは?

東京地裁R8.1.28
工場で勤務する従業員が10名を超えたことから会社が就業規則を新設。  「正社員の定年は満65歳。但し当規則実施時に定年年齢を超えている者の定年は68歳」とし、あわせて、定年後は最長で70歳まで再雇用することがある旨の規定を設けた。
これにより、定年を迎えた従業員2名が、定年制の新設が無効であるとして地位確認請求訴訟を提起
→定年制は、一般的にみれば、人事の刷新・経営の改善など企業の組織及び運営の適正化のために行われるものであって、不合理な制度ということはできない。また、本件就業規則では定年後の再雇用の余地が残されており、労働者の受ける不利益は一定程度緩和されている。  しかし、本件の従業員2名については、就業規則の施行時に従業員Aが67歳、従業員Bは65歳であって、本件就業規則が施行されれば、Aはわずか4か月で定年退職となり、Bは2年7か月で定年退職となる状況にあった。これを踏まえると、定年制によって、2名が受ける不利益は非常に大きい。
また、当時、Aが代表者の業務指示について誤りを指摘するようになり、Aと代表者の関係が悪化しており、代表者は、就業規則の新設をきっかけに定年制を設けることで、Aを退職させる意図を有していたものと推認される。
さらに、過半数代表者の選出にあたり、代表者が候補者を指名しており、従業員11名中7名の同意によりこの候補者が選出されているが、過半数代表者の選出に当たって使用者が選出過程の全部又は一部に関与する方法によることは不適切であり、適切に選出されていない。また、各従業員が就業規則等の案文を示されてから意見等の提出期限までの期間は6日間と比較的短期間であった。
以上のとおり、本件就業規則における定年制の新設は、AB両名らについてみると、両名が受ける不利益が非常に大きいといえ、代表者がAを退職させる意図を有していたものと推認され、労使交渉に不適切なところがあるから、合理的なものとはいえない。新設された定年制はAB両名には適用されないと判断。
地位確認請求を認容したうえでAに対しては5年超のバックペイ約5200万円、Bに対しても5年超のバックペイ約3500万円の支払命令

就業規則を新規導入する際に注意すべき裁判例です。
「Aを退職させる意図」が「推認」されたのが問題点として指摘されていますが、定年制は、そもそも退職させる意図で導入するものではないかという気もします。
とはいえ、定年制の新設は、重大な不利益変更であり、労使協議は明らかに不十分でした。
会社としては高額なバックペイの支払を命じられたうえ、AとB2名の地位確認請求が認容され、少なくともこの2人は定年なしということになりそうです。控訴するほかなさそうですが、控訴審でも敗訴してしまうと、バックペイが1億を超えそうで、心配になる事案です。
企業の教訓
・定年制の新規導入は不利益変更であり、丁寧な労使協議が必須
・導入の目的について、「特定の従業員を辞めさせるため」と疑われる事情を作ってはならない。特に、誰かとトラブルになっている場面での定年制の新規導入は、「その人を退職させる意図」があると裁判所から見られることがある点に注意
・施行時点で高齢の既存社員への影響を十分に検討する。 定年までの猶予期間が短い従業員ほど不利益が大きくなるため、経過措置や適用除外を設けることも検討すべき。

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