判例・裁判例コラム

被害者名黒塗りの報告書ではパワハラ加害者を懲戒できない!東京地裁の判断

東京地裁R7.2.7

老人ホームの施設長について、職員約15名がハラスメント被害を会社に訴えた。会社は外部弁護士4名で調査委員会を設置して施設長の言動を調査。調査委員会は、調査の結果、例えば部下職員の入居者対応に関し、「人殺し」「あなたのせいで亡くなったようなもんだ。」などと会議室の外まで聞こえるような大声で15分程度一方的に叱責するなどの問題があり、これはパワハラにあたると判断。会社はこの施設長を懲戒解雇した
→本件の調査委員会は、会社と業務上かかわりのなかった2つの法律事務所(労働者側を中心に受任する弁護士事務所と、使用者側を中心に受任する弁護士事務所)から各2名の弁護士を選任して組織され、過去に施設長との間の労働紛争に関わった社長をはじめとする会社関係者は調査過程に関与しない仕組みがとられていたことから、中立性が客観的に担保されていたと評価できる。また、調査委員会が、施設に勤務していた職員及び元職員の大部分からヒアリングを行ったこと、ヒアリング後に、施設長からも反論を聴取し、これを検討した上で結論を出したことなどから、その調査結果は一般的に信用性が高いと言い得る。しかし、施設長は各事実について一貫して否認しており、その理由を具体的に述べている。訴訟に提出された調査委員会の調査報告書は供述者のうち18名の氏名等が黒塗りされて証拠提出されており、供述者の特定ができないことからすれば、調査結果の信用性についてはなお慎重に検討する必要がある。調査報告書のみを根拠にパワハラを認定できないと判断。

パワハラ加害者による調査協力拒否、調査妨害を理由とする普通解雇の有効性前のページ

レジ金横領を理由とする解雇次のページ

ピックアップ記事

  1. 232名が一斉に退職前の有給消化を申請した場合に時季変更権行使が認められる?(大…
  2. 労働時間を自己申告させていた会社における安全配慮義務違反の判断事例(宮崎地裁R6…
  3. クレーム発生や不規則勤務・時間外労働がある場合の突然死は過労死?(宮崎地裁R6.…
  4. 業務命令に応じない従業員への対応事例(東京地裁R5.11.15)
  5. 就業規則に降給の規定を置けば給与の減額は可能?(東京地裁R5.12.14)

関連記事

  1. 判例・裁判例コラム

    職場内での悪影響を理由に復職不可とできる?

    横浜地裁H30.5.10うつ状態と適応障害で休職中の職員について主治…

  2. 判例・裁判例コラム

    試し勤務の提示を拒否した従業員の復職可否判断

    静岡地裁R6.10.31メンタルヘルス不調者の復職にあたり、…

  3. 判例・裁判例コラム

    就業時間外の性犯罪による懲戒解雇

    東京地裁R6.10.25上場企業の営業社員が退勤後に同僚と飲…

  4. 判例・裁判例コラム

    配転命令を受けた従業員からの職種限定合意の主張が認められなかった事例

    大阪地裁R5.3.31製造業で30年以上システム課で勤務していた従業…

アーカイブ

  1. 判例・裁判例コラム

    「復職可能であり、3か月間は短時間勤務及び軽度業務に限る配慮が必要」と主治医が診…
  2. 判例・裁判例コラム

    パソコンの共有フォルダに保存した就業規則の効力
  3. 判例・裁判例コラム

    日常的な強い叱責がパワハラにはあたらないが安全配慮義務違反ありとされた事例
  4. 判例・裁判例コラム

    懲戒処分前の弁明の機会付与に従業員側弁護士を同席させる義務はある?
  5. 判例・裁判例コラム

    半期ごとの業績評価により賃金を最大2割減額する規定の効力
PAGE TOP