福岡高裁R5.2.21
中華料理店を経営する会社が外国籍の労働者を新名取店に配属。しかし、厨房で店長と口論となり、店長がこの労働者を平手打ちするなどの喧嘩が発生。会社は翌日労働者を仙台店に配転。その後、「従業員の処分に関する通知」と題する書面を作成し、店長が先に手を上げ、労働者もやり返しており、喧嘩は労働者が店長をひどく侮辱したことが原因であると指摘したうえ、店長に対する停職4日などの懲戒処分とあわせて、労働者に対し「過失処分」として秋田店への転勤を命じた。就業規則には業務の都合により転勤を命じることがある旨の定めがあった。しかし、労働者はこの転勤の辞令を破り捨てるなどして反発した。
→火や油、包丁を使う業務であり、この店長とこの労働者を同じ職場におけば喧嘩が再発し、生命・身体に危険が及ぶ恐れがあると判断したため、新名取店から異動させ、その後、秋田店で退職者が出たため、秋田店への異動を命じたもの。業務上の必要性はあったといえる。
もっとも、書面での通知の内容や、喧嘩から約10日後に転勤を命じられたこと、店長に対する懲戒と同時に労働者に対する転勤命令がされていることからすると、転勤命令は、業務上の必要性と同時に、労働者に対する懲戒目的でされたことが推認される。会社は就業規則で、けん責、減給、出勤停止、諭旨退職、懲戒解雇の懲戒処分の種類を定めている。懲戒目的で転勤命令を行うことは、このような懲戒処分の種類を定めた就業規則の趣旨を潜脱するものであり、不当な動機・目的があったと評価せざるを得ない。
労働者は独身であり、店舗間の転勤を伴う前提で入社したものであるとしても、転勤は転居を伴うものであって、労働者は当時仙台市内で日本語を勉強していたことや、転勤命令の日から秋田店への出勤日までの期間が短期間であることを考慮すると、転勤による不利益は小さくない。転勤命令は権利濫用により無効と判断。
※会社は最終的にこの労働者を転勤に対する拒否的態度などを理由に解雇していますが、解雇も無効と判断されました。