判例・裁判例コラム

医療機関が職員54名に“この看護師のパワハラを見たか”と実名を告げて調査 …これは名誉毀損になる?ー仙台地裁の結論!

仙台地裁R8.1.8
法人が開設する医療センターで、職員が看護師のうち1人から無視されたり威圧的な言動を受けたりしており、退職したいと看護師長に相談。
これを受けて、看護師長が、職員らに、問題の看護師との関係で困っていることを書面で報告するように求めたところ、9名の職員がこれに応じて報告書を提出。32項目に及ぶ威圧的な口調や言動、人格否定、無視、悪口などの問題が記載されていた。
そこで、法人は、この看護師に事実確認したが、看護師は事実がない、わからないなどと回答。そのため、法人のハラスメント相談員がセンターで働く職員54名に対し、この看護師のハラスメントにあたり得る言動の有無についてヒアリング調査を実施。約半数がそのような言動を見聞きしたことがあると回答した。
法人は、委員会を開いて審議したが、就労継続困難な程に勤務環境が悪化したとまでは判断できないとして、ハラスメントにあたるとは認めなかった。ただし、勤務環境がより悪化することを防ぐために配置転換が必要であると判断し、看護師に異動命令。看護師は異動を命じられた日以降休職し、4か月後に退職した。
その後、看護師は、法人に対する損害賠償請求の訴訟を提起。法人が50名以上の職員に、自分の名前を開示してその問題行為を見聞きしたかを質問したことは、自分がハラスメント行為をした者であるかのような印象を与え、名誉を毀損すると主張した。
→法人は職員らへのヒアリング調査において、看護師のハラスメントに当たり得る言動を見聞きしたことがないと回答した職員に対しては、報告書に記載された威圧的な言動等の具体的な内容を告げずに調査を終わらせているから、看護師が威圧的な言動等をしたとの事実を摘示したものではない。
また、看護師がハラスメント調査を受けている事実を開示すること自体が看護師の社会的評価をただちに低下させるとは言えない。
厚労省のパワハラ指針において事実関係の迅速かつ正確な確認を求められているところ、9名が報告した32項目にわたる威圧的な言動等について、その大半につき報告者と看護師との言い分が全面的に対立していた状況下においては、第三者からのヒアリングの必要性はあった。また、その方法も、ヒアリング対象者を一人ずつ別室に呼び、話した内容は他言しないよう依頼した上でヒアリングするなど、看護師が調査を受けている事実が無限定に広まらないよう一定の配慮がされていた。
損害賠償請求認めず。

ハラスメント調査は事業者の義務であり、事実関係の主張が対立する場面では、ヒアリング対象者の数を確保することが調査の公正を維持するために重要です。
その意味で、本件のような名誉毀損の主張はなかなか通りにくいのではないかと感じます。
とはいえ、行為者として調査対象となった人の名誉にも配慮すべきであり、
・ハラスメントに当たり得る言動を見聞きしたことがないと回答した職員に対しては、具体的な内容を告げずに調査を終わらせている
・ヒアリング対象者を一人ずつ別室に呼び、話した内容は他言しないよう依頼した上でヒアリングするなど、行為者が調査を受けている事実が無限定に広まらないよう一定の配慮がされていた
といった点は他の事案でも参考になるように思いました。

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