判例・裁判例コラム

不備ある時間外手当の支払いは賃金規程を改定しても無効?調整給ありでも“不利益変更”とされ会社敗訴【大阪地裁】

大阪地裁R7.11.28
運送会社が労働者との間の雇用契約書で「業績給には一定の時間外手当を含むものとする」などと定めて業績給を支給していたが、その後「業績給」の名称を「時間外割増」と変更。
賃金規程も改定して、「時間外割増とは法所定の時間外手当として支給する。賃金規程第11条に基づいて計算した時間外手当が時間外割増を上回る場合は、別途支給する。」と定めた。
その後、労働者が残業代請求訴訟を提起。
労働者は、賃金規程改定前の「業績給」は割増賃金の支払いにあたらず、また、賃金規程改定は労働条件の不利益変更に当たり無効であると主張。
これに対して、会社は、改定後の新給与では、並行して旧給与による給与計算も行い、差額を調整給として支給するとされているから、不利益変更には当たらないと反論した。
→賃金規程改定前に支給されていた「業績給」は、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することができないから割増賃金の支払いとは認められない。
また、賃金規程改定後、会社は調整給を支給しているが、これは改定前の「業績給」を基礎賃金に入れておらず、「業績給」が有効な割増賃金の支払いであることを前提とした計算方法になっている。
会社が支給する調整給によっては、労働者が旧給与に基づき請求できるはずの業績給部分の割増賃金が支払われておらず、その不足額は月額10万円程度に上ることからしても、改定により労働者が受ける不利益の程度は著しい。
そして、改定は、業績給が残業代の支払いと認められない法的リスクを避けるという目的が少なからずあることがうかがわれ、その不利益を労働者に法的に受忍させるだけの高度の必要性に基づく合理的なものとは認め難い。
さらに、これについて労働者側との間で十分な交渉がされた形跡は証拠上認められない。
以上によれば、本件変更は、合理的であるとは認められず、本件労働者に新賃金規程は適用されない。
改定前の業績給、改定後の時間外割増はいずれも割増賃金の支払いにはあたらないとして、別途、割増賃金の支払いを命じた。

一度、不備ある固定残業代制度を作ってしまうと、あとで正しく整備しなおすことすら、困難であることを示す例です。
不備ある固定残業代制度を一度作ると、それは所定内賃金になってしまい、この部分について固定残業代制度の規定を正しく作り直すこと自体が不利益変更になるからです。
以下の動画でもこの点を解説しています。
https://youtu.be/Ya1-naPEd6E
一度、不備ある固定残業代制度を作ってしまうと、リカバリーすら困難なので、必ず作る前にプロに相談することが必要です。
また、もし、現状不備ある規定をおいてしまっている場合は、トラブルになる前に相談してください。

コンベア事故でも会社は責任なし?“手を入れるとは想定外”とした裁判所の判断前のページ

ピックアップ記事

  1. 就業規則に降給の規定を置けば給与の減額は可能?(東京地裁R5.12.14)
  2. 【フリーランス保護法対応セミナー】契約書ひな形や支払サイトの見直し、相談窓口の整…
  3. クレーム発生や不規則勤務・時間外労働がある場合の突然死は過労死?(宮崎地裁R6.…
  4. 労働時間を自己申告させていた会社における安全配慮義務違反の判断事例(宮崎地裁R6…
  5. 232名が一斉に退職前の有給消化を申請した場合に時季変更権行使が認められる?(大…

関連記事

  1. 判例・裁判例コラム

    復職審査における産業医と主治医の役割

    東京地裁R6.5.28「主治医は患者の治療を任務としており、患者の職…

  2. 就業規則に降給の規定を置けば給与の減額は可能?(東京地裁R5.12.14)

    判例・裁判例コラム

    就業規則に降給の規定を置けば給与の減額は可能?(東京地裁R5.12.14)

    事件の概要給与規程において、「業務内容の変更に伴い、その業務…

  3. 判例・裁判例コラム

    懲戒解雇を社内で公示したことが名誉毀損にあたる?

    東京地裁R5.5.24機密情報を漏洩した経理部長代理を懲戒解雇。会社…

  4. 判例・裁判例コラム

    残業代の支払期日

    さいたま地裁H29.4.6就業規則で職員の給与について毎月末日締め当…

  5. 判例・裁判例コラム

    懲戒処分としての降格に伴い基本給、役付手当を減額することは有効か?

    東京高裁R3.6.23タイムカードを改ざんした部長を懲戒処分として次…

アーカイブ

  1. 判例・裁判例コラム

    入社後約4年間にわたり「残業手当」の名目で支給していた賃金が時間外労働の対価とは…
  2. 判例・裁判例コラム

    PIP実施方法の問題点が指摘され、解雇が無効とされた事例
  3. 判例・裁判例コラム

    就業規則による民法536条2項の適用排除が認められた例
  4. 判例・裁判例コラム

    懲戒処分前の弁明の機会付与に従業員側弁護士を同席させる義務はある?
  5. 判例・裁判例コラム

    まじめな職員が業務を期限までに終えられないことを苦に自殺したことについて、積極的…
PAGE TOP