判例・裁判例コラム

役員としての重大な不正を理由に従業員としての退職金を不支給にできる?

東京地裁R6.1.29
学校法人において教授等を務めていた職員が大学の学長(役員)に就任。その後、職員としては定年退職した後も役員(理事)として学長を続けた。しかし、個人的に謝礼を受け取って受験生の得点を調整して合格させるなどの不正を行い、逮捕されて辞任。贈賄容疑で起訴されて大きく報道され、のちに有罪判決を受けた。大学は職員の退職金について定めた退職金規程に「懲戒に類する事由により解雇された職員には原則として退職金を支給しない。」とあることを理由に、この元学長の退職金を不支給とした
→法人における職員退職金は、勤務年数に応じて支給率が上昇するものであり、賃金の後払的性格がある。そのため、上記規定を、解雇されずに懲戒に類する事由があり退職した職員に類推適用する余地があるとしても、それは解雇の対象となる職員としての行為に限られる。元学長の退職金の支払いは大学の慣行により、役員退任まで延期されていたものの、退職金規程によれば本来は職員として定年退職した際に支払われるはずのものであることや、得点調整は理事である学長の職務に関して行われたものであること等を踏まえると、退職金不支給は認められない。約1600万円の退職金支払を命じた。

役職手当を固定残業代と定める規定の有効性前のページ

諭旨解雇処分を受けて提出した退職届の効力次のページ

ピックアップ記事

  1. 業務命令に応じない従業員への対応事例(東京地裁R5.11.15)
  2. 232名が一斉に退職前の有給消化を申請した場合に時季変更権行使が認められる?(大…
  3. 就業規則に降給の規定を置けば給与の減額は可能?(東京地裁R5.12.14)
  4. 【フリーランス保護法対応セミナー】契約書ひな形や支払サイトの見直し、相談窓口の整…
  5. クレーム発生や不規則勤務・時間外労働がある場合の突然死は過労死?(宮崎地裁R6.…

関連記事

  1. 判例・裁判例コラム

    上司とトラブルが絶えない従業員に対する退職勧奨が違法とされた例

    東京地裁R5.12.7 会社代表者が、従業員に対し、上司の業…

  2. 判例・裁判例コラム

    雇用契約書に明記した固定残業代の主張が認められなかった事例

    東京地裁R5.1.26雇用契約書で「基本給16万円、職務手当18万円…

  3. 判例・裁判例コラム

    ジョブ型雇用における能力不足解雇

    東京地裁H28.6.1海外証券会社の日本法人が営業職を解雇→本件労働…

  4. 判例・裁判例コラム

    些細なミスを広範に注意した後の能力不足解雇

    東京地裁R4.2.2職員約900名の法人が新卒者を月給約21…

  5. 判例・裁判例コラム

    業務命令に応じない従業員への対応事例

    東京地裁R5.11.15従業員が、会議への参加や業務の引き継ぎ等の業…

アーカイブ

  1. 判例・裁判例コラム

    私傷病休職からの復職者の症状が悪化したときの対応〜休職期間がもう残っていない場合…
  2. 判例・裁判例コラム

    休職について説明したにすぎず休職を命じていないとされた事例
  3. 判例・裁判例コラム

    有期雇用の従業員との退職合意
  4. 判例・裁判例コラム

    通勤中の電車内で盗撮行為を行った課長を懲戒解雇した事案
  5. 判例・裁判例コラム

    PIP実施方法の問題点が指摘され、解雇が無効とされた事例
PAGE TOP