判例・裁判例コラム

東京地裁R6.3.28

上場企業の総務部長が営業成績不良の営業社員に退職勧奨。営業社員は退職届を提出したが、後になって、「総務部長の発言によって、退職願を提出しなければ、法的に有効な解雇がされると誤信し、これを回避するために退職願を提出した」と主張。退職の意思表示は錯誤により無効であるとして、会社に対して訴訟を提起。雇用契約上の地位の確認を求めた。
→総務部長は、営業社員に対し、合意退職に応じなかった場合の仮定の話には答えられない旨回答するにとどめ、本件は解雇ではなく自主退職であることを明確に伝えているから、営業社員が解雇されると誤信したとはいえない。また、仮に、営業社員が法的に有効な解雇がされると誤信したとしても、有効性の見通しについての誤りにすぎないから、そもそも、錯誤があったとして退職の意思表示が無効になるとはいえない。雇用契約終了と判断。

能力不足、協調性欠如、非違行為などさまざまな理由により従業員に退職勧奨しなければならないという場面で、従業員からされる可能性のある質問の1つが、「合意退職に応じなかったらどうなるんですか」というものです。
これに対して、「応じなかったら解雇します」と回答するのは、原則ダメだという話はよく知られているように思います(コメント欄解説動画参照)。
一方で、実際には応じなかったら解雇することはありうるわけで、解雇はしませんということは言うべきではないです。
では、どう答えるべきかというと、ポストの裁判例の総務部長のように、合意退職に応じなかった場合の仮定の話には答えられないと回答するのが基本ということになります。他にもさまざまな質問がされることが考えられますが、想定される質問にどう答えるかをあらかじめ決めて臨むことが大切です。

以下の動画もご参照ください。
https://youtu.be/2aoIpdAKhQk
https://youtu.be/cj5umumJ30g

年俸制における賃金減額にはどのような規定が必要か?東京地裁の判断前のページ

ピックアップ記事

  1. 【フリーランス保護法対応セミナー】契約書ひな形や支払サイトの見直し、相談窓口の整…
  2. 業務命令に応じない従業員への対応事例(東京地裁R5.11.15)
  3. 就業規則に降給の規定を置けば給与の減額は可能?(東京地裁R5.12.14)
  4. クレーム発生や不規則勤務・時間外労働がある場合の突然死は過労死?(宮崎地裁R6.…
  5. 労働時間を自己申告させていた会社における安全配慮義務違反の判断事例(宮崎地裁R6…

関連記事

  1. 判例・裁判例コラム

    裁量労働制であれば生活リズムが整っていなくても復職できる?

    東京地裁H29.11.30出版社の編集職として裁量労働制で勤務する従…

  2. 判例・裁判例コラム

    業務命令に応じない従業員への対応事例②

    東京高裁H14.9.30上司の業務上の指示に従わない女性社員に対し、…

アーカイブ

  1. 判例・裁判例コラム

    営業担当者の採用失敗の手痛い失敗事例!東京地裁の結論!
  2. 判例・裁判例コラム

    社外で勤務する従業員が休憩がとれていなかったとして割増賃金請求!東京地裁の判断!…
  3. 判例・裁判例コラム

    始業前の就業準備行為の労働時間性
  4. 就業規則に降給の規定を置けば給与の減額は可能?(東京地裁R5.12.14)

    判例・裁判例コラム

    就業規則に降給の規定を置けば給与の減額は可能?(東京地裁R5.12.14)
  5. 判例・裁判例コラム

    東京地裁R3.2.15
PAGE TOP