判例・裁判例コラム

事故3回の運転手を「診断書が出るまで乗務停止」。それは事実上の解雇か?東京地裁の判断

東京地裁R7.8.14
タクシー運転手が、入社後約3か月で3回の物損事故を発生させ、また、乗務について複数回の苦情を受けた。会社は、その都度指導し、この運転手の乗務に関する車内カメラやドライブレコーダーの映像を本人に見せたが、運転手は、映像に映っているのは自分ではないと繰り返し主張。会社は、記憶障害・意識障害の可能性があり、乗務再開には精密検査による医師の診断結果が必要であると判断し、診断書を提出するよう指示。運転手は、健康診断書を持参したものの、意識障害の可能性について精密検査による医師の診断結果は記載されていなかった。そこで、会社は、精密検査を受けて結果が出るまでの間、乗務停止を指示。運転手は、これは事実上の解雇であり、不法行為にあたるとして会社に訴訟提起
→会社は健康上の理由による事故防止の観点から、精密検査を指示し、その間、乗務停止を指示したもの。本件指示は、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当。権限濫用及び不法行為はいずれも認められないと判断

タクシー事業に適用される旅客自動車運送事業運輸規則21条5項には、
「旅客自動車運送事業者は、乗務員等の健康状態の把握に努め、疾病、疲労、睡眠不足その他の理由により安全に運行の業務を遂行し、又はその補助をすることができないおそれがある乗務員等を事業用自動車の運行の業務に従事させてはならない。」
とあり、ポストのタクシー会社のような対応はタクシー会社としての法令上の義務といえます。
タクシー会社から同様の事案について相談を受けたときは、このタクシー会社のような対応が法令上の義務であるとして助言する必要があると考えられます。
乗務員にも法令上の義務であることを説明して理解を求めると、本件のようなトラブルになりにくいように思いました。

“経験3年のSE”で採用したのに電卓アプリも作れない…試用期間中の解雇は有効?裁判所が重視した事実とは?前のページ

執拗かつ威圧的に相手を責め立て、建設的な議論ができない従業員。 解雇は有効?東京地裁の判断!次のページ

ピックアップ記事

  1. 業務命令に応じない従業員への対応事例(東京地裁R5.11.15)
  2. 232名が一斉に退職前の有給消化を申請した場合に時季変更権行使が認められる?(大…
  3. クレーム発生や不規則勤務・時間外労働がある場合の突然死は過労死?(宮崎地裁R6.…
  4. 就業規則に降給の規定を置けば給与の減額は可能?(東京地裁R5.12.14)
  5. 労働時間を自己申告させていた会社における安全配慮義務違反の判断事例(宮崎地裁R6…

関連記事

  1. 判例・裁判例コラム

    年俸制における賃金減額にはどのような規定が必要か?東京地裁の判断

    東京地裁R7.6.5 ソフトウェア開発会社が公認会計士資格をもつ労働…

  2. 判例・裁判例コラム

    中古車買取店の店長が管理監督者にあたるかが問題になった事案

    岐阜地裁R6.8.8中古車買取店の店長が時間外労働割増賃金を請求→店…

  3. 判例・裁判例コラム

    就業規則による民法536条2項の適用排除が認められた例

    函館地裁S63.2.29タクシー会社が人身死亡事故を起こした乗務員を…

アーカイブ

  1. 判例・裁判例コラム

    同一労働同一賃金ルール違反を是正する際の経過措置が同一労働同一賃金ルール違反であ…
  2. 判例・裁判例コラム

    管理監督者性が否定された場合は役職手当を固定残業代として扱う旨を定める規定の効力…
  3. 判例・裁判例コラム

    退職勧奨で、 「それはもうクビでは?」 →「そう取ってもらって結構」 その場で書…
  4. 判例・裁判例コラム

    鳥取地裁R6.2.16
  5. 判例・裁判例コラム

    日報を提出しない従業員に対するけん責処分
PAGE TOP