大阪地裁R7.9.25
住宅型有料老人ホーム内の事務室において夜間勤務をしていた68歳の女性従業員が72歳の入居者に頭部を複数回殴打され、亡くなった。
被害者の遺族が会社に不法行為に基づく損害賠償請求訴訟を提起
→入居者は事件の3日前には他の入居者に対する傷害事件を起こし、長らく生活の本拠であった本件施設からの退居を余儀なくされていた。
このような経緯に照らせば、会社は、この入居者が職員らに危害を加える具体的な危険性があることを認識しており、その認識の下でこの入居者の退居手続を進めていたといえる。
退居が完了していない時点では、会社は職員に対する関係で、安全配慮義務として、危険性に適切に対処し、生命身体に危害が及ぶことを防ぐ措置を採るべき義務を負っていた。
その具体的内容としては、次の①、②のようなものであったというべきである。
①職員に対して、この入居者の直近の言動や施設に対する不満について周知し、この入居者の動静に注意を払ったり、接触を減らしたりするよう指導すること(危険性の周知と被害予防方法の指導)
② 職員が1名のみとなる夜勤時間帯においては、少なくともこの入居者が退居するまでの期間、職員の数を一時的に増やしたり、職員が事務室に在室時には開放することが多かったドアを内側から施錠できるように新たに錠を取り付けたり、これまで使用していなかった電子錠の使用方法を職員に説明して、その使用を促し、事務室に入居者が無断で侵入できない状況にすること(夜勤時間帯における危害防止措置の実施)
本件では、入居者に関して生じた出来事などを記載し、職員に周知するための申し送り事項に関するノートが作成されていたが、傷害事件などに関する記載は概括的なものにとどまり、かつ、これらを踏まえたこの入居者の対応に関する具体的指示は職員にされていなかった。
また、事務室には電子錠が設置されていたものの、その使用方法が職員に周知されていなかった。
そのため、ドアを内側から施錠することができなかった上に、本件事件のときも、被害者は一人で、かつ、ドアを開放して事務室において勤務していた。
そして、これらの安全配慮義務が尽くされていれば、本件事件の回避可能性があったと認められる。 職員に対する安全配慮義務を尽くしていなかったことは、不法行為を構成するとして会社に損害賠償命令。
悲惨な事件です。
加害者は、入居者に対する傷害事件などを起こしていましたが、夜勤をしていた被害者個人に対する攻撃性を見せていたわけではなかったようです。
そのような場合でも、裁判所は事件の予見可能性があると判断し、会社は4000万円を超える賠償を命じられることになりました。
他の入居者に対する傷害事件を起こしたことを受けて加害者を退去させようとしていた矢先の事件でした。会社は、傷害事件発生を受けて当月中に加害者を退去させようとしており、これが本件のきっかけになったと思われますが、すみやかに退去させようとしたこと自体は適切だったと考えられます。





